近年、故人をより身近に感じながら供養したいというニーズに応える「手元供養」が、新しい供養の形として静かに広がりを見せています。
この記事では、手元供養の基本からメリット・デメリット、具体的な方法、そして大切な「骨壺」の選び方や「骨壺 入れ方」まで、わかりやすく解説します。
手元供養とは？
手元供養とは、故人のご遺骨やご遺灰の一部、または全てを、お墓に納める代わりに自宅で保管したり、身に着けられる小さな容器やアクセサリーなどに納めて供養する方法です。
手元供養が選ばれる理由
従来、故人の供養といえばお墓を建てて納骨するのが一般的でした。しかし、近年では以下のような理由から、手元供養を選ぶ人が増えています。
- 故人をいつもそばに感じていたいという想い
- お墓の建立や維持管理の負担軽減
- ライフスタイルの多様化（転勤が多い、子どもがいないなど）
- 宗教観の変化、無宗教の方の増加
「お墓が遠くてなかなかお参りに行けない」「故人と離れがたい」といった方々にとって、手元供養は故人との絆を身近に感じられる、心温まる供養の選択肢となっています。
手元供養を始めるタイミング
手元供養を始めるタイミングは、特に決まりはありませんが、一般的には、四十九日や一周忌などの法要後、納骨のタイミングで手元供養を始める方が多いようです。
法要を終え、気持ちの整理がついた段階で、手元供養を始めることで、故人を偲ぶ気持ちを新たにし、前向きな気持ちで供養に取り組むことができます。
また、お墓じまいを機に、ご遺骨の一部を手元に残すという選択肢もあります。お墓じまいをした後、全てのご遺骨を永代供養にするのではなく、一部を手元に残し、自宅で供養することで、故人との繋がりを保ち続けることができます。
お墓じまいは、故人との別れを意味するものではなく、新たな供養の形を始めるきっかけと捉えることができます。
手元供養を始めるタイミングは、それぞれの状況や気持ちに合わせて自由に決めることができますが、故人を偲ぶ気持ちを大切にすることがとても大切です。
手元供養の具体的な方法
手元供養には、いくつかの方法があり、代表的なものをいくつか紹介します。
ご遺骨をを小さな骨壺に入れて自宅で安置する
ご遺骨をそのまま、あるいは一部を小さな骨壺に入れて仏壇やリビングなど、故人を身近に感じられる場所に安置します。これが最も一般的な手元供養の形です。
ご遺骨を加工してアクセサリーにする
ペンダントやリング、ブレスレットなどに少量のご遺骨を納めたり、ご遺骨からダイヤモンドなどのメモリアルジュエリーを作成したりする方法です。常に身に着けることで、故人と一体感を覚えることができます。
ミニ骨壷やオブジェにご遺骨を納める
デザイン性の高い小さな骨壷や、一見すると骨壺とはわからないような美しいオブジェにご遺骨を納める方法です。インテリアにも馴染みやすく、さりげなく故人を偲ぶことができます。
散骨や樹木葬と組み合わせる
全てのご遺骨を手元に置くのではなく、一部を手元供養とし、残りは散骨したり、樹木葬にしたりする方法です。故人の遺志や家族の希望に合わせて、柔軟に対応できます。
どの方法を選ぶかは、故人の遺志、ご自身のライフスタイル、そして何よりも故人を思う気持ちを大切に、家族間でよく話し合って決めるようにしましょう。
手元供養の「骨壺」選び方
「骨壺」選びのポイント
手元供養用の骨壺は、伝統的な陶磁器製のものから、ガラス、金属、木製、天然石など、さまざまな素材で作られています。デザインも、シンプルなものから華やかな絵付けが施されたもの、モダンなフォルムのものまで多岐にわたります。
サイズ
•全骨: 全てのご遺骨を納める場合は、一般的なサイズの骨壺（約18cm～21cm程度）が必要です。
•分骨: ご遺骨の一部を納める場合は、手のひらサイズのミニ骨壺（約6cm～12cm程度）が人気です。置く場所や移動のしやすさも考慮しましょう。
素材
•陶磁器: 最も一般的で、デザインも豊富です。吸湿性があるため、密閉性の高いものや、湿気対策が施されたものを選ぶとようにしましょう。価格帯も幅広いです。
•ガラス: 透明感があり、美しいデザインが魅力ですが、割れやすいというデメリットもあるため、取り扱いには注意が必要です。
•金属（ステンレス、真鍮など）: 丈夫で密閉性が高いものが多く、長期保管に向いています。シンプルなデザインから、装飾が施されたものまであります。
•木製: 温かみのある質感が特徴です。湿気に弱い場合があるため、保管場所やお手入れに注意が必要です。
デザイン
シンプルなもの、可愛らしいもの、スタイリッシュなものなど、故人やご自身の好みを反映させることができます。「いかにも骨壺」という見た目に抵抗がある場合は、一見して骨壺とわからないデザイン性の高いものもおすすめです。
密閉性
特にご遺骨を長期間保管する場合や、湿気の多い場所に置く場合は、密閉性の高い骨壺を選ぶことが大切です。カビの発生を防ぐためにも重要なポイントです。シリコンパッキンが付いているものや、二重構造になっているものなどがあります。
価格
手元供養用の骨壺は、数千円から数万円程度のものが中心です。素材やデザイン、ブランドによって価格は異なりますが、必ずしも高価なものが良いというわけではありません。予算内で、故人とご自身が心から納得できるものを選びましょう。
骨壺 入れ方の基本手順
火葬場で骨壺に収められたご遺骨を、新しく購入した手元供養用のミニ骨壺に移し替えたい（分骨する）場合は、ご自身で行うことも可能です。
ご自身でご遺骨をミニ骨壺などに移す（分骨する）場合の一般的な手順を紹介します。
1.準備するもの
- 手元供養用の骨壺（ミニ骨壺など）
- 清潔な手袋（ゴム手袋や木綿の手袋など）
- マスク
- 敷物（新聞紙や白い布など、ご遺骨が散らばっても拾いやすいように）
- 必要であれば、ご遺骨を細かくするための道具
- お清めの塩や酒（宗教や慣習による）
- 小さなスプーンまたはピンセット（ご遺骨を骨壺に納める際に使用）
- シリカゲルなどの乾燥剤（必要に応じて）
2.場所の準備
作業は、清潔なテーブルの上などで行います。床やテーブルに敷物を敷き、その上で作業を行います。換気にも配慮しましょう。
3.ご遺骨を取り出す
既存の骨壺からご遺骨をピンセットやスプーンを使って、骨壺に少しずつ遺骨を入れていきます。大きなご遺骨が入りにくい場合は、無理に入れようとせず、納められる部分だけを選ぶようにしましょう。入れ終わった後は、乾燥剤を入れることでカビなどを防げます。
4.蓋を閉める
ご遺骨を全て納めたら、骨壺の蓋をしっかりと閉めます。密閉性を高めるために、蓋の内側にパッキンが付いているものや、接着剤で封をするタイプもあります（接着する場合は、後から開けられなくなる可能性があるので注意が必要です）。
5.清掃と供養
作業が終わったら、周囲をきれいに清掃します。散らばったご遺骨がないか確認し、もしあれば丁寧に拾い集めて骨壺に戻すか、別途供養します。最後に、手を合わせ、故人に報告しましょう。
「骨壺 入れ方」の注意点
ご遺骨を、手元供養用のミニ骨壺に移す際にはトラブルを避けるために以下の注意点に気を付けるようにしましょう。
精神的な負担
ご自身でご遺骨に触れることに抵抗を感じる場合や、精神的に辛い場合は、無理をせず、石材店や葬儀社、手元供養の専門業者に依頼することも検討しましょう。費用はかかりますが、専門家が丁寧に対応してくれます。
分骨証明書
「分骨証明書（ぶんこつしょうめいしょ）」とは、遺骨を分けた（分骨した）ことを証明する公的な書類です。「火葬証明書（分骨用）」や「埋蔵・収蔵証明書（分骨用）」などと呼ばれることもあります。
分骨証明書が必要な理由は、分骨したご遺骨を別の場所（お墓や納骨堂など）に納める際に、そのご遺骨が誰のものであり、どこから来たのかを明らかにするためです。
将来的に残りのご遺骨をお墓に納骨する場合や、別の場所に分骨する場合、「分骨証明書」が必要になることがあります。分骨を行う際には、事前に火葬場や墓地の管理者に確認し、必要であれば発行してもらいましょう。
手元供養「のみ」で、ご自宅で保管するだけであれば、基本的に分骨証明書は必要ありません。
親族の理解
ご遺骨を分骨したり、自宅で保管したりすることについて、他の親族の理解を得ておくことが大切です。事前に十分に話し合い、合意形成を図りましょう。
カビ対策
ご遺骨は湿気に弱く、カビが生えることがあります。密閉性の高い骨壺を選び、直射日光や高温多湿を避けた場所に保管しましょう。骨壺の中に乾燥剤を入れるのも有効です。
手元供養のメリット・デメリット
手元供養は新しい供養の形であるがゆえに、利便性だけでなく注意すべきポイントも存在します。ここでは、「手元供養」のメリットと注意点をそれぞれ解説します。
手元供養のメリット
1. 故人を身近に感じられる
手元供養の最大のメリットは、常に故人を身近に感じられることです。お墓が遠方にある場合、なかなか足を運べず寂しさを感じる人も多いですが、手元供養なら毎日手を合わせたり語りかけたりすることができます。
宗教や形式に縛られず自由な供養ができる
仏教・神道・キリスト教などの宗教的形式にとらわれず、自分なりの方法で供養を行えるのも手元供養の魅力です。仏壇を設ける必要もなく、インテリアに馴染むデザインの骨壷やミニ仏壇も多く販売されています。
墓地や納骨堂の費用がかからない
お墓を建立したり、納骨堂を契約するには数十万円〜百万円単位の費用が発生します。手元供養であれば、骨壺などの最低限の費用で供養が可能なため、金銭的な負担を軽減できます。
転居時にも故人と一緒に移動できる
手元供養は、自宅に設置するため、引っ越しの際も骨壺や供養品を一緒に持ち運ぶことができます。地方から都市部へ移住する高齢者や、将来的なライフスタイルの変化にも柔軟に対応できます。
手元供養のデメリット
手元供養は多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。
親族間で意見が分かれる可能性
「お墓に納骨するのが当然」という考え方を持つ人も多く、親族から理解が得られないケースがあります。特に年配の方は伝統的な供養を重視する傾向があり、手元供養に反対されることもあります。
あらかじめ親族と話し合い、意向を共有しておくようにしましょう。
遺骨の保管に注意が必要
骨壺を自宅に置いておく場合、湿気やカビ、破損のリスクがあります。密閉性の高い骨壺を選び、乾燥剤を入れる、直射日光や湿気の少ない場所に安置するなど、保管方法にも気を配る必要があります。
残りのご遺骨の扱い
ご遺骨の一部を手元供養にする場合、残りのご遺骨をどうするかを決める必要があります。お墓に納骨するのか、散骨するのか、永代供養墓を利用するのかなど、選択肢を検討し、手配する必要があります。
将来的な供養をどうするかも検討が必要
ご自身が高齢になったり、亡くなったりした場合、手元にあるご遺骨を誰がどのように管理・供養していくのかを考えておく必要があります。次の世代に負担をかけないよう、事前に話し合っておくか、最終的な納骨先（永代供養墓など）を決めておくと安心です。
遺言やエンディングノートに「将来は納骨堂に納めてほしい」など希望を書いておくと安心です。
法的には問題ないがルールの理解が必要
手元供養は法律的に違法ではありませんが、「分骨証明書」が必要なケースや、火葬場・葬儀社の協力が必要な場合もあります。分骨の手続きや火葬証明書の扱いには注意が必要です。
これらのデメリットや注意点を十分に理解した上で、ご自身やご家族にとって手元供養が本当に適しているのかを慎重に検討するようにしましょう。
手元供養に関する法律
日本において、ご遺骨の取り扱いに関する法律は主に「墓地、埋葬等に関する法律（墓埋法）」です。
現在の法律では、ご遺骨を自宅で保管すること（手元供養）は禁止されていません。墓地以外の場所に埋葬（土に埋める行為）することは禁じられていますが、自宅で骨壺に入れて安置することは問題ありません。
ご遺骨を分ける「分骨」も法的に認められています。分骨する際には、火葬場で「分骨証明書」を発行してもらうか、既にお墓に納骨されているご遺骨を分骨する場合は、墓地の管理者に分骨証明書を発行してもらう必要があります。この証明書は、分骨したご遺骨を別の場所（他のお墓や納骨堂など）に納める際に必要となります。
ご遺骨を粉末状にして海や山に撒く「散骨」については、直接的に規制する法律はありませんが、節度を持って行い、他人の迷惑にならないよう配慮する必要があります。自治体によっては条例でルールを定めている場合もあるため、事前に確認が必要です。専門業者に依頼するのが一般的です。
宗教的な観点からの手元供養
仏教の多くの宗派では、手元供養を明確に禁止しているわけではありません。ただし、宗派の教義や考え方によっては、お墓への納骨を重視する場合もあります。
分骨の考え方
仏教では、お釈迦様のご遺骨（仏舎利）が各地に分骨された歴史があるため、分骨自体を問題視しない宗派が多いです。
供養のあり方
故人を偲び、冥福を祈る気持ちが最も重要であるという点では、多くの宗教で共通しています。
もしご自身の信仰する宗教がある場合は、菩提寺の住職などに相談するようにしましょう。
まとめ
「手元供養」は、故人との距離を縮め、心のよりどころとして機能する現代的な供養方法です。経済的・精神的に多くのメリットがありますが、長期的な視点と親族との対話、適切な管理が求められるのも事実です。
自分らしく、大切な人を偲ぶ方法として、しっかりと理解したうえで「手元供養」を選択しましょう。