この記事では、曹洞宗の焼香の正しいやり方について、基本的な手順から大切な心得、よくある疑問まで、詳しく解説いたします。心を込めて故人をお見送りできるよう、ぜひ参考にしてください。
曹洞宗とは?~禅宗の一派としての特徴~
曹洞宗(そうとうしゅう)は、鎌倉時代に道元禅師が開いた禅宗の一派です。坐禅を通じて仏道を実践する「只管打坐(しかんたざ)」を基本教義としており、日常生活のすべてを修行と捉える姿勢が特徴です。
日本国内では福井県の永平寺、神奈川県の總持寺が大本山とされ、多くの信者に親しまれています。
仏教のなかでも「形式より心が大切」とされる曹洞宗ですが、焼香に関しては明確な作法が存在します。曹洞宗での焼香のやり方を正しく理解することで、仏前での礼を尽くすことができます。
曹洞宗における焼香の意味
曹洞宗は、坐禅を修行の中心に据える禅宗の一つで、曹洞宗においても焼香は非常に大切な仏事作法と捉えられており、故人への供養はもちろんのこと、仏様への帰依を示す行為として重んじられています。
曹洞宗の焼香で特徴的なのは、「香りを仏様へ捧げることを最も重視する」という点です。これは、香りを自分自身に向けるのではなく、純粋に仏様や故人に捧げるという意識の表れです。
曹洞宗の焼香の作法

焼香には、立って行う「立礼焼香」、座って行う「座礼焼香」、香炉が席に回ってくる「回し焼香」の3つの形式があります。会場の状況や葬儀・法事の形式によって異なりますが、基本的な手順は共通しています。
立礼焼香(りつれいしょうこう)の場合
椅子席の会場や、スペースに比較的余裕がある場合に用いられる最も一般的な焼香の形式です。
- 遺影(ご本尊)に一礼:焼香台の前に立ったら、まず遺影(またはご本尊)に向かって深く一礼します。
- 抹香をつまむ(1回目:主香 しゅこう):右手の親指、人差し指、中指の三本で抹香を少量つまみ、額の高さまでおしいただきます。この時、左手は右手に添えるか、数珠を持ったまま自然に下ろしておきます。
- 香炉にくべる(1回目:主香):つまんだ抹香を、燃えている炭火の上に静かに落とします。
- 抹香をつまむ(2回目:従香 じゅこう):再度、同じように右手の親指、人差し指、中指の三本で抹香を少量つまみます。※ここでは、お香を額に押しいただくことはしません。
- 香炉にくべる(2回目:従香):つまんだ抹香を、1回目(主香)の抹香の左脇に、少し間をあけて添えるように静かにくべます。
- 合掌・礼拝:両手を胸の前で合わせ、故人の冥福を心から祈り、深く一礼します。数珠は親指と人差し指の間にかけ、房は下に垂らします。
- 下がる際の一礼:合掌・礼拝が終わったら、遺影(またはご本尊)に再度一礼します。
その後、身体の向きをやや斜めに変えながら2~3歩下がり、僧侶(導師)に一礼、続いてご遺族に一礼してから自席に戻ります。
座礼焼香(ざれいしょうこう)の場合
畳敷きの和室の会場などで行われる焼香の形式です。基本的な流れは立礼焼香と同じですが、移動や立ち座りの動作が加わります。
- 焼香台手前で座って一礼:焼香台の手前まで進んだら、正座をしてご遺族と僧侶(導師)にそれぞれ一礼します。
- 膝行・膝退(しっこう・しったい):焼香台の前へは、両手を軽く握って膝の横に置き、親指を立てて支えとしながら膝で進む「膝行」で移動します。帰る際は同様に「膝退」で下がります。立って移動するのは避けましょう。
- 遺影(ご本尊)に一礼:焼香台の前に正座し、遺影(またはご本尊)に向かって深く一礼します。
- 抹香をつまむ(1回目:主香):立礼焼香と同様に、右手の三指で抹香をつまみ、額の高さまでおしいただきます。
- 香炉にくべる(1回目:主香):つまんだ抹香を炭火の上に静かにくべます。
- 抹香をつまむ(2回目:従香):再度、抹香をつまみます。※ここでは、お香を額に押しいただくことはしません。
- 香炉にくべる(2回目:従香):1回目の抹香の左脇に添えるようにくべます。
- 合掌・礼拝:正座のまま合掌し、故人の冥福を祈り、深く一礼します。
- 下がる際の一礼:遺影(またはご本尊)に再度一礼した後、膝退で少し下がり、向き直って僧侶(導師)、ご遺族にそれぞれ一礼してから自席に戻ります。
回し焼香(まわししょうこう)の場合
会場が狭い場合や、参列者が多い場合などに、香炉と抹香が盆に乗せられて席まで回ってくる形式です。
- 香炉が回ってきたら:自分の前に香炉が回ってきたら、軽く会釈して受け取ります。香炉は自分の正面、または膝の上に置きます。
- 遺影(ご本尊)に一礼(心の中で):その場で、遺影(またはご本尊)の方を向き、心の中で一礼します。座っている場合は軽く頭を下げる程度でも構いません。
- 抹香をつまむ(1回目:主香):
立礼・座礼と同様に、右手の三指で抹香をつまみ、額の高さまでおしいただき、香炉にくべます。 - 抹香をつまむ(2回目:従香):再度、抹香をつまみ、1回目の抹香の左脇に添えるようにくべます。※ここでは、お香を額に押しいただくことはしません。
- 合掌・礼拝:その場で合掌し、故人の冥福を祈ります。
- 次の人へ回す:焼香が終わったら、香炉と抹香を盆ごと次の人に丁寧に回します。その際、軽く会釈をするとより丁寧です。
曹洞宗の焼香における特徴的な作法
曹洞宗の焼香には、他の宗派と異なるいくつかの特徴的な作法があります。
お香をつまむ回数:主香と従香の2回
曹洞宗の焼香では、お香(抹香)を2回くべるのが正式なやり方とされています。
1回目:主香(しゅこう)
これは、仏様や故人への主要な供養となる香です。心を込めて、丁寧に炭火の上に置きます。
2回目:従香(じゅこう)
これは、主香の香りが消えないように、また香りを助けるために添える香です。主香の左側に、少し間隔をあけてくべます。
この2回の焼香は、仏・法・僧の三宝に帰依するという意味合いや、自身の心身を清め、故人を敬う気持ちを新たにするという教えに基づいているとも言われます。
ただし、葬儀の規模や時間の都合、または僧侶からの指示によっては、1回のみとする場合もあります。その際は、司会者や僧侶からの案内に従いましょう。もし案内がなければ、2回行うのが基本です。1回の場合は、心を込めて主香のみを行います。
数珠の持ち方と扱い方
焼香の際には、数珠(じゅず・ねんじゅ)を手に持つのがマナーです。曹洞宗では、正式には「看経念珠(かんきんねんじゅ)」と呼ばれる百八つの珠がある長い数珠を用いますが、一般の参列者は略式の片手数珠でも問題ありません。
持ち方
焼香の順番を待つ間や移動する際は、数珠の輪を二重にして左手で持ちます。房は下に垂らすようにします。一重の数珠の場合は、そのまま左手で持ちます。
焼香時
焼香を行う際は、左手にかけたまま、右手でお香をつまみます。
合掌時
合掌する際は、数珠を両手の親指と人差し指の間に挟むようにかけ、房は手の甲側、指先から下に垂れるようにします。または、左手首にかけたまま合掌しても構いません。
よくある質問
曹洞宗の正式な作法では、主香と従香の2回お香をくべるのが基本です。しかし、葬儀の規模が大きく参列者が非常に多い場合や、時間が限られている場合など、葬儀の進行をスムーズにするために焼香は1回と指示される場合があります。
焼香のやり方に間違いがあっても、故人を偲ぶ気持ちが何より大切です。曹洞宗では形式よりも心を重んじるため、落ち着いて丁寧に行えば多少の作法の違いは失礼にはなりません。
曹洞宗では、焼香の際は数珠を左手に持ちます。合掌するときには、数珠を両手の親指にかける形で合掌するのが一般的です。
曹洞宗の正式な数珠は百八つの珠がある「看経念珠」ですが、一般の参列者はご自身の宗派の数珠や略式の片手数珠で問題ありません。
ご自宅の仏壇でお線香をあげる場合は、通常、抹香ではなく線香を使用することが多いと思います。線香の場合、曹洞宗では1本または3本立てるのが一般的です。
まとめ
曹洞宗では、焼香は2回が正式な作法とされています。一回目は「主香(しゅこう)」として額に押しいただき、二回目は「従香(じゅこう)」としてそのまま香炉にくべます。この焼香のやり方には、故人への敬意や供養の心が込められています。
宗派の作法を正しく理解し、心を込めた焼香を行うことで、故人やご遺族への思いやりを形として表すことができます。葬儀や法要の場に臨む際には、ぜひ今回の内容を参考に、礼儀と敬意をもって焼香を行うようにしましょう。